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お客様からサミュエル・ベケットの『モロイ』をお譲りいただきました。

ベケットと言えば、現代演劇に最大の影響を与えた、戯曲『ゴドーを待ちながら』で有名ですが、1952年に出されたこの戯曲と並行しながら書かれた小説が、『モロイ』『マロウンは死ぬ』『名づけえぬもの』の三部作です。

わたしは数年前に三部作最後の『名づけえぬもの』を最初に読み始めたのですが、まったく読めず、それこそ15ページも進まずに読むのを断念したのを覚えています。文字は平明でまるで内容が難しいわけでもないのに歯が立たなかったのは、今まで自分が考えていた「小説はこういうものである」とはまるで無縁な地点で書かれていたからでしょう。わたしは不思議と読めないことが嬉しかったのを覚えています。今のわたしでは捉えられない、異様ななにかがそこにはある、ということだけはわかったからです。
 
モロイはこう始まります。

私は母の寝室にいる。今ではそこで生活しているのは私だ。どんなふうにしてここまでやってきたかはわからない。救急車かもしれない、なにか乗り物で来たには違いない。だれかが助けてくれた。一人では来られなかったろう。毎週やってくるあの男、私がここにいるのはあの男のおかげかもしれない。

ゴドーを待ちながらは「この三部作を書く苦闘の息抜き」のために書いたとベケット自身は語っています。『モロイ』では、主人公はベッドで目覚めて町の中を移動していきながら話が進んでいき、続編の『マロウンは死ぬ』では、ある部屋の中でベッドに寝たまま歩けない男の人称で話が展開します。そして最後の『名づけえぬもの』では、どこにいるのか、そもそも人間なのか、目や口はあるのかすらわからない暗い場所の中にいるなにかが最後までしゃべり続けます。いずれにせよ、前述のモロイの冒頭のように、自分がだれで、なにをしているのか、なぜここにいるのかも未明の状態から、小説は進んでいきます。

ベケットは三部作を書きながら、語り手の動きを剥ぎ、物語ることを剥ぎ、母国語でない言葉で書いて滑らかさを剥ぎ、空間を剥ぎ、風景を剥ぎ、未明の場所で、それでも続けていく小説を書きました。読んでいると熟練の潜水夫が、まだ潜れる、まだ潜れる!と息継ぎをしないままひたすら潜り続けているような印象をわたしは受けます。そして「もう続けられない、続けよう」と最後のページに書いて、『名づけえぬもの』は終わります。

正直、何度も読みましたが、まだ一度も読めた気はしていませんし、最後までページをめくっても未消化のまま整理できず、しばらくするとまた読みたくなって本を開くというのをここ何年も繰り返しています。しかし整理してしまったらそれはベケットの文章とはまるで別のものになってしまうでしょう。確かなのはベケットを読んで以降、ストーリーやメッセージ先行の小説をわたしは一切読めなくなってしまいました。結論ありきのそれらが非常に窮屈で息苦しく、背中がこわばってしまうのです。

もし、今ある小説に飽きていらっしゃる方がいれば、まるで別の小説の可能性を押し広げていったベケットの三部作はいかがでしょうか?「いったい何の話をしているのかわからない、しかしわからないのに面白い」という喜びに出会える小説です。

タテ


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