ミシェル・フーコー『性の歴史I 知への意志』渡辺守章訳(新潮社、1986年)が入荷しました!

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 若干、大仰ながらも、日々の読書に関係のある話から入っていきたいと思います。

 21世紀に入ってから20年が経とうとしていますが、振り返ってみると、様々な分野でこれまで考えてもみなかったような問題への対応を迫られてきたように思われます。先が見通せない中で、これまでどのような知見が蓄積されてきただろうかと、古典に立ち返る場面も、今後一層増えていくのではないでしょうか。

 しかし、歴史を遡ったからといって、現在の問題に対する直接的な答えが見つかるとは限りません。過去に答えを求めにいくような読書をしつつも、むしろ打ちのめされるような事実に出会うことだってあります。過去に有効だった解決策が、実のところ現在の問題を引き起こしているという現実を知ってしまうのは、歴史の勉強ではよくあることです。ただ、そのような成功例が問題の原因に転じるような歴史を振り返ることが、スリリングな読書となることがあります。

 ミシェル・フーコーについての研究で、近年ふれられることが多くなってきた、『性の歴史I 知への意志』渡辺守章訳(新潮社、1986年、原書1976年)という本があります(※)。ここでフーコーが提唱した「生権力」という言葉も、フーコー研究とは一見関係のない場で目にすることも増えてきています。今回の投稿は、この「生権力」を切り口にしたものです。

※最近2冊入荷しましたが、1冊は既にご注文が入りました

フーコー「生権力」

 「生権力」とは、フーコーが唱えた、「死を頂点とする君主権力(生殺与奪の権利)との対比のための新語」です。「生権力」が個人におよぶ場合は個人から何かを奪うのではなく、個人の身体それ自体を規律に従わせます。他方で国家の「生権力」が人間の集団に対して行使される場合、人口に関する統計学や、公衆衛生の仕組みを用いて、国民の健康を管理し、生産力の増強を図ることが目的となります(※)。

※美馬達哉『生を治める術としての近代医療――フーコー『監獄の誕生』を読み直す』(現代書館、2015年)14頁。

 この「生権力」についての基本的理解をもとに、次のフーコー『性の歴史I 知への意志』からの引用を読んでみましょう。

「このような〈生-権力〉は、疑う余地もなく、資本主義の発達に不可欠の要因であった。資本主義が保証されてきたのは、ただ、生産機関へと身体を管理された形で組み込むという代価を払ってのみ、そして人口現象を経済的プロセスにはめ込むという代償によってのみなのであった。しかし資本主義はそれ以上のことを要求した。資本主義にとっては、このどちらもが成長・増大することが、その強化と同時にその使用可能性と従順さとが必要だった。」(178頁)
 
 この部分は、私たちが当然のように思いこんでいる、近代の国民国家の仕組みを再考するためのきっかけになるかもしれません。国民国家の権力の所在、そしてそれがどのように行使されてきたのかという歴史を知ることは、一歩目のスタートとして重要です。

 国民国家の仕組みは、かつては外に対して強い軍隊を保持するための、勝ちパターンでした。経済の面では、工業化を推し進めて経済の規模を拡大し、同時に国家の福祉行政を拡大していって国民の人権を保障するために、国民国家の仕組みが機能してきた歴史は否定できません。こうして、私たちの常識となっている政治や経済の制度は、国民国家の仕組みが大前提となっています。フーコーの概念と、歴史学との整合性については、さらなる検証が必要でしょうが、国民国家の成り立ちの歴史は「生権力」の行使の歴史であったともいえるかもしれません。

 他方で、現在の国際社会で大きな問題となっているのは、気候変動や難民・移民問題など、国境を超える問題です。国民国家という仕組みでは対応できない問題が山積しています。

 上記で引用で注目すべきなのは、「生産機関へと身体を管理された形で組み込む」、「そして人口現象を経済的プロセスにはめ込む」という形で、「生権力」の用いられ方が書いてあることです。ここではもちろん、資本主義の発達のため、国民国家に人々が組み込まれ、はめ込まれていったということですが、それゆえに私たちにとってヒントとなるかもしれません。そのような「生権力」の行使を避けて、別の仕組みを提示し得るのか、あるいは「生権力」の存在を否定できないなら、国民国家以外のところに組み込んだり、はめ込んだりすることができるだろうか、とフーコーが生前問わなかったような問いを、私たちがそれぞれの仕方で立てていくことが、とりあえずの一歩となるかもしれません。

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小野坂

 


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