揺らぐ私ーpanpanya『グヤバノ・ホリデー』ご紹介ー

涼しくなってきました。散歩をするにもいい季節ですね。

今日はそんな道草が出てくる漫画を紹介したいと思います。panpanya『グヤバノ・ホリデー』(白泉社・2019年)です。

panpanya グヤバノ・ホリデー

表紙は、なんとも可愛らしい女の子が路地をふらふらしている絵です。この画、なかなか面白いです。看板やお店、道端の植物などは緻密で立体的になっているのに、女の子は薄い鉛筆でさらっと描かれただけです。この強弱、町に存在する物モノの存在感に対する、人間の軽さを示しているように思います。知らない道を歩く時、もしくは見慣れた風景が違うものに見える瞬間、私たちは自分の揺れを感じる。周りばかりが当たり前にあるのに、そこに迷い込んだ私はこんなにも迷子で、こうして存在していていいのかわからなくなる。私は今ちゃんといるのか?本当は、いないのではないか?
私たちはいつでも、そんな存在の不安に陥る可能性がある。この画はそのことを示唆しているようです。手で描くものだからできる、とても漫画的な表現に思います。

続けて、「比較鳩学入門」を見てみましょう。『グヤバノ・ホリデー』に収録されています。これも、画の中の線の強弱が印象的です。あらすじは以下です。二人の女の子が電車に乗りながら鳩を外の風景の中に見つけました。他の地で見る鳩よりも大きいように感じて、二人は降りたことのない駅で途中下車しました。彼女たちは鳩を追いかけながら、知らない町の奥に進んでいくのですが、ついに製麺所から出る麺の残りをついばむことで、鳩が大きくなっているのではないかと気づきます。

なんてことない話ですが、画を見ると興味深い。
車窓から、あれ?この鳩大きくない?と思った時に見える鳩は、とても写実的に描かれています。一方、女の子たちはやはり、薄い鉛筆のぺらっとしたキャラクターです。その後も知らない町の家々や、途中で見かけた鯉は濃くて立体的で、しかしそこを歩く女の子たちは薄く軽い。そして途中で女の子たちは、ラーメン屋に入ります。そこの店主はなぜか頭をすっぽり覆うような被り物をしていて、顔が見えません。しかし、その男も薄い鉛筆で描かれている。女の子たちにとって、変なヘルメットみたいなものをしていようと、その人は未知の他人ではないのです。今彼女たちが興味を持ち、彼女たちに存在感を持って迫ってくるのは鳩!なのです。女の子たちの主観が画に反映されています。
その後、町の奥まったところ、湿気のこもった狭い道を抜け、製麺所にたどり着いた女の子たちは、そこの鳩がとても大きいと思います。「なんだかまるで私たちが小さくなったような気分だよ」という女の子の言葉には、知らない空間と物モノに圧倒される気持ちが現われています。
しかし、そこで女の子たちは製麺所から出る麺の残りが鳩を大きくしているのではないかと気づきます。それを思いついた時の画、鳩の線は急に薄くなります。女の子が警戒心が薄くなった鳩を抱えた時、さらに鳩は薄く細い線で描かれ、写実的でなくキャラクター的になる。彼女たちは、鳩の謎に気づいたのです、本当に麺が鳩を大きくしているのかはわからないけれど、彼女たちの中では解決してしまった。もう鳩は彼女の手の内にいる。
そう、鳩はもう、彼女たちの中では自分の理解の内に入った、するともう謎めく存在感で迫ってくることはない。だからその後、彼女たちが町で鳩を見かけても、鳩はもう立体的に濃く描かれることはないのです。物語の最後、彼女たちは当初の目的地で見かけた鳩を「普通の鳩」だと言います。彼女たちにとって、鳩は「普通」のものになったのです。
そして女の子はそのような出来事の後、「私にとっての「普通の鳩」の大きさが如何ほどのものなのかは、まだわからない。」と言いつつ、「今日、そのわかり方だけは心得た…と言ってもよいと思うのです。」と語っています。その言葉には、公園にいる、薄い線で描かれたキャラクター的な鳩が添えられています。女の子は鳩について「心得た」から、鳩はそれ以降、彼女にとって謎を秘めた存在感を持つものではなくなったのです。

この作品は、鳩というありふれたものが題材になっています。しかし、何かわからないものがあって、それをどうにかわかろうとしていくことは、人間がいつも行っていることです。そうしないと、そのわからないものの多さ、周りを埋め尽くす不明な存在に押しつぶされてしまいそうになるから。私たちは、漫画の中の女の子たちが薄い線で描かれるように、実は軽い存在だから。
何とか理屈づけて周囲をわかろうとする、理解ができればそれが存在感で自分を脅かしてくるようなことはなくなる。でもその理屈づけは、私が行った理屈づけであって、正しいのかはわからない。でもそうすることで、世界から私を圧倒するものを一つ減らす。
しかし私の中の認識が変わっただけで、モノはモノとして存在し続けるのです。私の中で細い線となっても、それは変わらず存在している。それは覚えておかないといけないのでしょう。漫画の女の子は「わかり方がわかった気がする」と言っていましたが、いつでもその認識は崩れ、またわからないモノになってモノは迫ってくる可能性はあるのです。

本日は、漫画ならではの表現が興味深い作品を取り上げました。ちょっと不思議な雰囲気のする作品を、秋の夜長にじっくり読むのも良いかもしれませんね。

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本日もお読みくださりありがとうございました。

コトー


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