受け継がれる科学への愛ー原田三夫 科學實驗玩具の作り方ー
『一年五十二週間日曜の楽しみ科學實驗玩具の作り方』
今から90年前、理學士・原田三夫によって書かれた『科學實驗玩具の作り方』という本があります。
冒頭には、「子どもに理科への興味を持たせる。興味を持てば、自然と原理に対する疑問が湧き、進んで理科を学ぶようになる」と記されています。
実際にページをめくってみると、その言葉どおり、大人でも思わずワクワクしてしまうような、楽しい科学玩具の作り方が満載です。
そんな魅力的な本を書いた原田三夫とは、どのような人物だったのでしょうか?

原田三夫『科學實驗玩具の作り方』(昭和10年・誠光堂)

子どもでも集めやすい素材選び、図やワンフレーズでの説明など、子どもの事を考え、子どもの為に書かれた本だということが伝わってきます。
子供の科学の創始者的存在
現在も月刊誌として誠文堂新光社から発行されている『子供の科学』
理學士・原田三夫がかねてより刊行を願っていた、子ども向けの科学雑誌です。
原田は、祖父と父が県の土木技師という家庭に生まれました。父の仕事柄、住まいの長屋はまるで実験室のようで、幼いころから工作が身近にある環境で育ったようです。親戚に歌人がいたこともあり、作文も得意だったそうです。
17歳のときには札幌農学校(現在の北海道大学)に首席で入学するなど、幼少期から学問の才に恵まれていました。その後、東京大学に進学・卒業し、東京府立一中(現在の日比谷高校)で生物学の教師として教壇に立つことになります。教職の傍ら、科学ジャーナリストの道を志し、同志とともに『子供の科学』の前身となる雑誌『子供と科学』を刊行しましたが、残念ながら初めの号の売れ行きは思わしくありませんでした。さらに情熱を注ごうと、学校の試験監督中にも執筆をしていたところ、それが教頭に見つかってしまい、教師の職を失うことになります。
それでも出版への情熱は冷めることなく、精力的な活動を続けた末に、ついには『子供の科学』の創刊へとつながっていったのです。
火星に住んでみたいと思ったことはありますか?
ふざけているわけではありません……
実は、理學士・原田三夫は、日本で初めて「火星の土地」を売った人物でもあるのです。
もちろん、火星の土地は誰のものでもなく、正式に所有できるものではありません。ですが、当時の飲みの席でのちょっとした会話がきっかけとなり、周囲の人々を巻き込んで、「火星の土地権利書」なるものが実際に世に出されました。
※この火星の土地権利書については、『大東亜科学奇譚』にカラー写真が掲載されています。ご興味のある方は、ぜひそちらをご覧ください。
原田三夫は、この権利書の受付証に「火星人たる心構え」も記しています。そこに記された内容は、
科学尊重、芸術愛好、寛大、無欲、友愛、男女を超越、平和を守ること――そんな理想にあふれたものでした。
この文章からは、原田三夫をはじめ、火星の土地権利書の発行に関わった人々のユーモアと、科学や未来への夢が感じられます。この火星の土地権利書は、原田が創設に関わり、のちに理事長も務めた「日本宇宙旅行協会」によって発行されたもので、当時の理事のひとりには、あの江戸川乱歩も名を連ねていました。

原田三夫『科學實驗玩具の作り方』(昭和10年・誠光堂)
おわりに
原田三夫は、生涯を通じて科学と深く関わってきました。本書『科學實驗玩具の作り方』(昭和10年・誠光堂)においても、原田は「今日の初等教育はまだまだ詰め込み主義であり、特に理科にその手法を用いるのは持っての他である」と述べています。子どもの頃から遊びの延長として親しんできた科学に対して、原田は特別な思いを抱いていたのではないでしょうか。これは、彼自身が科学の本当の楽しさを深く理解していたからこそ出てきた言葉のように思えます。そしてその思いを、まだその楽しさを知らない子どもたちに届けたい――そんな願いから、『子供の科学』をはじめとした数多くの著作が生まれたのではないかと思います。
学生時代には病にかかり、ホームシックも重なって重度のうつに苦しみました。大学時代には結婚と離婚、さらには親になるという経験もしています。教員時代には執筆活動が問題となり、職を失うこともありました。さまざまな困難や波乱に満ちた人生を歩みながらも、原田は決して道を踏み外すことなく、科学と真摯に向き合い続けました。もはや「愛」とも呼べるその科学への情熱は、現在もなお、雑誌や書籍、そして多くの人々の心の中に受け継がれているのではないでしょうか。
参考図書
大東亜科学綺譚(ちくま文庫)/荒俣宏(著)
アラマタ人物伝(講談社)/荒俣宏(監修)
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