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前回の続きです。

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江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』の冒頭ではこんな風に書かれています。

多分それは一種の精神病ででもあったのでしょう。郷田三郎は、どんな遊びも、どんな職業も、何をやってみても、いっこうこの世が面白くないのでした。

郷田三郎はどんな職業についても、長くても一年続かず、遊びにも飽きてしまいます。犯罪のまねごとをして、気まぐれに誰かを尾行したり、妙な暗号文の書いた紙をベンチに挟んだり、変装をして、乞食になってみたり、女装したり。しかしこれにも飽きてしまい、ある日屋根裏にのぼり他の部屋をのぞくと、、、と話は続いていきます。

同じ乱歩の『パノラマ島奇談』では、主人公の人見広介は小説の中でこんな風に書かれています。

彼は自分では哲学科出身と称しているのですが、といって哲学の講義を聞いたわけではなく、ある時は文学に凝って夢中になり、その方の書物をあさっているかと思うと、ある時はとんでもない方角違いの建築家の教室などに出掛けて入って、熱心に聴講してみたり、(中略)ばかに気が多いくせに妙に飽き性で、これといって修得したかも苦も無く、無事に学校を卒業できたのが不思議なくらいなのです。

もっとも人見広介自身が、何かの職について世間なみの生活をいともうなんて神妙な考えは持っていなかったのです。実をいうと、彼はこの世を経験しない先から、この世に飽きはてていたのです。

乱歩の小説のいくつかの主人公たちは、とにかく飽きはてており、何かもっと奇特な奇怪ななにかはないかと求めているうちに一線を越えていってしまいます。

谷崎潤一郎『秘密』という短編の主人公も飽きるあまりに女装して、活動写真館で昔飽きてこっぴどくフった女に出会い、彼女が自分の女装より美しいことに興奮して、交流を再度深めていくうちに・・・という話です。本文にはこう書かれています。

その頃私の神経は、刃の擦()り切れたやすりのように、鋭敏な角々がすっかり鈍って、余程色彩の濃い、あくどい物に出逢わなければ、何の感興も湧()かなかった。微細な感受性の働きを要求する一流の芸術だとか、一流の料理だとかを翫味()するのが、不可能になっていた。下町の粋()と云われる茶屋の板前に感心して見たり、仁左衛門()や鴈治郎()の技巧を賞美したり、凡べて在り来たりの都会の歓楽を受け入れるには、あまり心が荒()んでいた。惰力の為めに面白くもない懶惰()な生活を、毎日々々繰り返して居るのが、堪えられなくなって、全然旧套()を擺脱()した、物好きな、アーティフィシャルな、Mode of life を見出()して見たかったのである。
普通の刺戟()に馴()れて了った神経を顫い()戦()かすような、何か不思議な、奇怪な事はないであろうか。現実をかけ離れた野蛮な荒唐な夢幻的な空気の中に、棲息()することは出来ないであろうか。こう思って私の魂は遠くバビロンやアッシリヤの古代の伝説の世界にさ迷ったり、コナンドイルや涙香()の探偵小説を想像したり、光線の熾烈()な熱帯地方の焦土と緑野を恋い慕ったり、腕白な少年時代のエクセントリックな悪戯()に憧がれれたりした。
夏目漱石の作品の多くの主人公たちは高等遊民と呼ばれ、仕事もせずに暮らしてます。『行人』の中でなにをしてても、これではないという気がして苦しむ、兄の一郎の姿など、もう読んだ当時のわたしには他人事には思えませんでした。非常にわたしも飽き性なのです。

退屈をモチーフにした作品は今挙げただけでなく、古今東西多くの作品がありますが、多くの作品は犯罪に走ったり、なにかより奇異な世界に走ったり、先程挙げた漱石の『行人』の中では、板塀のすきまからカニが出てくる姿を見惚れた一郎は、その間だけ苦しくはなかったことに気づかされて作品は終わります。退屈を忘れさせる忘我、自失の状態を彼らは求めていきます。
(余談ですが、退屈から遊離することをほとんどの作家は書きますが、退屈に興じる、その中に踏みとどまって、飛躍しないことでなにかと繋がろうとする作品を描いた、つげ義春の一連のマンガがわたしは退屈をとりあつかったものの中でもいっとうに好きです。)

海外の文学や映画の中でも、倦怠した主人公がファムファタール(運命の女)と出会い境界線を踏み越えて、ひきずりこまれていく話が多くあります。
次回に続きます。
タテ


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