経済史・労働史・植民地史に関する書籍が多数入荷しました~私たちの暮らしに影響を及ぼす歴史的構造の探究

 先日は、鎌倉市由比ヶ浜のリピーターのお客様より、社会科学、哲学、宗教学、専門書、学術書、全集、DVDをお譲りいただきました。複数回のご依頼をくださいまして、大変感謝申し上げます。
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 ところで、当初から予想された通り、コロナ禍で生じた影響は、狭い意味の感染症問題を超えて、私たちの暮らし全般に覆いかぶさっています。このことは日に日に明らかになってきました。たとえば、経済問題ではどうでしょうか。最近では、コロナ禍による景気の悪化を理由とした、外国人労働者への差別的な待遇の問題を報じた、以下の記事があります。

※吉岡 陽「外国人労働者から“切られる”日本」(日経ビジネス、2020年9月10日)
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00093/

 このことは、私たちの暮らしが、「よその国の立場の弱い人」の犠牲の上に成り立っていることを示しているのではないでしょうか。しかも、私たちは、負担を誰かに押し付けているばかりか、そのことを意識すらしてこなかったのかもしれません。

 ちょうど、経済史・労働史・植民地史に関する書籍がくまねこ堂に入荷しました。これらの書籍は、外国人労働者の現実と私たちの暮らしとの関係について、多くの手がかりを提供するのではないかと思われます。ただ、なぜ歴史の本なのか、と思われるかもしれません。しかしながら、歴史に着目することは、必ずしも遠回りとは限りません。というのも、一方的に誰かに負担を負わせ、そのことについて考えなくても良い状況というのは、一朝一夕には成立しないからです。ある程度の時間をかけて、いつの間にか誰も疑問視しなくなった構造にメスを入れたいならば、歴史に学ぶほかありません。

 そこで、今回入荷した書籍の中から、とくに次の2冊を紹介します。まずはこちらになります。

松村高夫『日本帝国主義下の植民地労働史』

松村高夫『日本帝国主義下の植民地労働史』(不二出版、2007年)です。松村氏については、くまねこ堂ブログでも以前、731部隊新史料の報道があった際に紹介しています。松村氏の初期からの専門はイギリス労働組合運動史・イギリス社会史ということになりますが、そうした研究で培われた見識は、「帝国日本」の植民地史と労働史にまたがる本書で発揮されることになります。それでは、なぜ「植民地労働史」なのでしょうか。松村氏は本書の冒頭で次のように述べています。

 「帝国と植民地の間の労働移動は、帝国の植民地支配・被支配の関係のもとで生じる移動であって、単なる水平的な労働移動ではない。また、ある段階では国家権力による『強制連行』を特質とする点にも留意する必要がある」

 このように、松村氏は、狭い意味での経済では捉えることのできない問題を視野に入れています。植民地の経済を考えるにあたって、この権力関係あるいは強制という大前提を忘却してはならないのだと、松村氏は強調しています。こうした問題関心によって書かれた本書を再訪することは、コロナ禍における外国人労働者差別の報道に接した私たちにとって必要なのではないでしょうか。

※松村高夫、矢野久編著『裁判と歴史学――七三一細菌戦部隊を法廷からみる』(現代書館、2007年)が入荷しました!~新史料発見の報道によせて(くまねこ堂古書ブログ、2020年6月22日)
https://www.kumanekodou.com/25399/

 あわせて、イギリスにおける産業社会の起源を問うことで、「私たちの時代の政治経済的起源」を探ろうとした著書を紹介します。

カール・ポランニー『大転換―市場社会の形成と崩壊―』

ハンガリー出身の経済学者・文化人類学者として知られるカール・ポランニーの主著、『大転換―市場社会の形成と崩壊―』吉沢英成ほか訳(東洋経済新報社、1975年、原著1957年。本編の執筆は第二次世界大戦中)です。「私たちの時代の政治経済的起源」とは本書原著の副題になります。松村氏の本を紹介した際と同様、こちらでも経済問題の大前提や、弱者に負担を負わせる構図に着目してみましょう。実はそのことについてポランニーが述べた箇所が、『大転換』第13章にあります。

 ポランニーは、さまざまな民族間の「文化接触」に関わる問題について、次のように説明しています。

 「接触は、ヨリ弱い側に破壊的影響を与えるであろう。しばしば仮定されるような経済的搾取ではなく、犠牲者の文化的環境の崩壊が、その退廃の原因なのである。経済的過程は、当然のことながら、破壊の媒介者となりうるだろうし、経済的劣位はほとんど常に弱者を屈服させるものである。だが、彼の零落の直接の原因は、だからといって、経済的な理由によるものとはいえない」

 この指摘は、私たちの暮らしが「よその国の立場の弱い人」の犠牲のよって維持されているとき、彼らから何を奪ってしまうのか、というように言い換えられるでしょう。そうであるならば、やはり外国人労働者への差別的な待遇が報じられる私たちの時代は、ポランニーが「私たちの時代の政治経済的起源」を問い始めた1930年代半ばと同様の問題を抱えていることになります。

 くまねこ堂では続々と学術書・専門書が入荷しています。精力的に買取を進めておりますが、あわせてこのブログでも読書の楽しさをお伝えして参ります。また、骨董品や絵画、掛軸、アクセサリーなど幅広いお品物の買取りもしております。そして、遺品整理なども行っております。

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