あなたの知らない東京-川本三郎「ミステリと東京」紹介-

雨の降る夜に冬を感じた今日この頃です。
静かに、しかし重く夜がのしかかる感じ。今、外に出たら帰ってこれないんだろうと思うような気持ちになる。新潟では汗ばむ日々が終われば、毎日こんな感じだったよと思い出しました。

今は東京に住んでいますが、そんなに巡ることもできてませんし、東京はいつでも私にとって未知です。それは私が上京組であるからかもしれませんが、以下の本で見出されるような東京は、東京で生まれ育った方にも見知らぬものではないでしょうか。
本日紹介する本は、川本三郎「ミステリと東京」(平凡社・2007年)です。

ミステリ 東京

帯によれば「東京を舞台とした多彩な人気ミステリ小説を糸口に、巨大な犯罪都市・「東京」を鮮やかに読み解く」とあります。

少し拾い読みをしてみます。桐野夏生『OUT』(1997年・講談社)を扱った部分です。
この小説で出てくる弁当工場は、武蔵村山市に設定されているのですが、それに川本氏は注目しています。
  『OUT』という表題は、アウトサイダーのアウト、日常的な市民生活の外へとはみだしてしま 
  うこと、つまりは犯罪を指している。同時にそれは、東京の西に拡大していく新興の町、アウ
  トスカート(郊外)も指している。(119ページ)
武蔵村山市を舞台とすることで、郊外、中心から外れた者が持つエネルギーが描かれているということでしょう。そしてアウトサイダーである主人公は小説の終盤、新宿歌舞伎町に向かいます。川本氏は新宿歌舞伎町は雑多なエネルギーを吸収していく濃厚な空間であるとして、だからこそ歌舞伎町に、罪を犯した主人公は惹かれていくのだとしています(120ページ)。
自分だけでミステリ小説を読んだ時は話の筋や犯罪のトリックに目がいきがちですが、このように土地に着目した考察を読むと、また小説の新しい面白さに出会えて感動します。

桐野夏生『OUT』の分析の中で、川本氏は以下のように述べています。
  いま純文学作家が、現代のもっともいかがわしい、それゆえに魅力的な町、新宿を描かなくな 
      っているとき、むしろ、積極的に、新宿の深奥へ、ディープな歌舞伎町へと入っていっている
      のはミステリ作家たちである。(120ページ)
自分の生活している空間とはどういうものなのか?またその周囲にある空間は何なのか?ということは、気になるものです。そしてそれを自分が理解する(した気になる)のに、フィクションは役に立つでしょう。虚構の中で、そこに登場する土地の可能性が模索されているから。そうして組み上げられた言葉に出会えた時、自分でその街を歩くことではわからないことも、自分では体験できないことも、感じ取ることができる。あなたはその土地に関する一つの解釈を得ることができる。川本氏の述べるように、ミステリでこそ追及されている土地があるのなら、それもまた興味深いです。

この本で川本氏が扱っているのは、久生十蘭「魔都」や海野十三「深夜の市長」、松本清張「点と線」、恩田陸「ドミノ」、京極夏彦「姑獲鳥の夏」、宮部みゆき「理由」など。時代時代の流行作家たちの描いた東京、かつミステリ小説で登場する東京をたくさん見ることで、あなたの知らない東京が見えてくるかもしれません。いつだって東京は、あなたにまだ見せたことのない顔を見せる用意はできているのでしょう。以上、本日は川本三郎「ミステリと東京」を紹介しつつ、東京について思いを巡らせてみました。

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コトー


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