グイド・ザッカーニ『中世イタリアの大学生活』児玉善仁訳(平凡社、1990年)が入荷しました~大学の起源と知識の生産について

 先日は、埼玉県川越市のお客様よりご依頼がございました!
SF、怪奇、ミステリー、ハヤカワ、創元推理文庫、ジョイス・ポーター、ニコラスブレイク、クレイトン・ロースンをお譲りいただきました、ありがとうございます!

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 いつもくまねこ堂ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 これまでの投稿で、戦前の帝国日本の「植民地大学」に関する書籍をご紹介したことがございます。本日は、時と所を変えて、13~15世紀ごろの中世イタリアの大学についての書籍が入荷しましたので、こちらを取り上げていきます(「植民地大学」についての過去の投稿は、下記のリンクよりご覧ください)。

※【「植民地大学」の本】京城帝国大学法文学会の経済分野の論集が入荷しました~「東大学派」かと思いきや、実は「京城帝大学派」⁉(くまねこ堂古書ブログ、2020年11月30日)
https://www.kumanekodou.com/26194/

 中世イタリアの大学生活

今回紹介する本は、グイド・ザッカーニ『中世イタリアの大学生活』児玉善仁訳(平凡社、1990年)です。訳者解説ともいうべき「はしがき」では、次のような問いが立てられています。

 「学生だけによって構成された大学という、まったく例を見ない高等教育の形態が成立したのはなぜだろうか」

 そのような形態を持つ、世界最初の「大学」がイタリアのボローニャ大学ということなのです。このような興味深い対象の研究にあたって、筆者のザッカーニは、ボローニャ国立文書館の行政・司法長官や民政長官の文書を用いて、当時のボローニャ大学の様子を生々しく再現しています。そうした手法が求められたのは、ザッカーニが本書の意図については述べたように「ボローニャ大学のように重要な高等教育の中心地において、教師と学生が送っていた生活のイメージをできるだけ完璧に描く」ためです。

 それゆえ本書は、教育史ではありますが、この分野にありがちな、「学校制度」の法制史、という生きている人間とはあまり関係のない退屈な内容とは無縁です。したがって、本書の読書とは、討論を主体とする講義の起源や、暴動・賭博・売春と隣り合わせの生活など、事実に即してハラハラドキドキしながら追体験すること、といっても差支えなさそうです。

 こうした暮らしに埋め込まれた大学の形態と、そこでのありのままの姿を再考することは、これまでの経済的・社会的な勝ちパターンが通用しない「ポスト資本主義社会」「ポスト国民国家時代」に生きる私たちにとって、重要なヒントを与えてくれるように思われます。経営学の大家であるピーター・ドラッカーは1990年代初頭に、「今後、国民経済においても、国際経済においても、ますます重要な意味を持つことになる唯一のものは、知識の生産性をあげるためのマネジメントの仕事ぶりである」と述べました。そのうえでドラッカーは、知識の生産性をあげる方法は、結合にあると説きます。

ドラッカー『ポスト資本主義社会』
▲P.F. ドラッカー『ポスト資本主義社会――21世紀の組織と人間はどう変わるか』上田惇生ほか訳(ダイヤモンド社、1993年)318頁

 結合を生み出す力は、定期試験でいい点をとることが目的の、受け身の知識吸収では培えません。そういう「通学」は、知識の細分化を招くばかりか、学ぶ理由すら忘却する落とし穴が待っている道です。ここには新しい可能性が存在する余地がありません。

 誰も思いつかなかった新たな結合を発見するには、自分のなりの仕方で、その全力を賭けて最善の調査手法や論理構成を編み出す特訓を続ける必要があります。そのための重要な発想の端緒をつかむためには、かつてのボローニャ大学のような暮らしと学業の密接な関係が求められるのではないでしょうか。

 そのような場が現在の大学にあるのか、学生はそうした意欲を持っているのか、よくよく検討しなければいけない時期にきているように思われます。「キャンパスライフを送れない」ことを悩む大学生や、そのことを心配する保護者の方などがおられるそうですが、そもそも大学は高校までと同じように受動的に通学する場ではありません。それに「キャンパス」は「構内」とか「校庭」という物体を表す言葉であり、大学の目的や機能そのものを指しているわけではありません。ザッカーニの描き出したボローニャ大学の姿と、ドラッカーの「知識の結合」論に倣って考えるなら、次のようにいえるかもしれません。

・勉強の仕方、調査研究の手法を自力で編み出すためのハコの一つが大学であり、付属図書館である。
・むしろ「大学」を自分の暮らしのほうに取り返すような方向性で、あらたな結合を探究するほうが、よっぽど大学生の生活にふさわしい。

 これらは、とりあえずの思いつきの域を出ませんが、その具体的な手法について考えていきたいと思っています。

 お譲りいただいた品々の内容紹介のブログ投稿にあたっては、これまで考えてこなかったような話題にふれることも多く、ひょっとすると新結合のチャンスか?との思いで作成しております。興味深い書籍などが入荷しましたら、本ブログで随時紹介していきます。ご関心を持たれましたり、ご質問などございましたら、ご気軽にご一報くださると幸いです。

 お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。スタッフ一同心よりお待ちしております。

小野坂


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