超絶技巧の根付師・森田藻己の弟子、深井藻壽(最終回)


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(続きです)
森田藻己は、弟子に常々、
「銘はあまり早く入れないようがいい。
 後で若い時の作品を見て、恥しい思いをすることがあるからなあ」
ともらしていたといいます。
(「根付-江戸細密工芸の華」日本根付研究会二十周年記念出版 より)

今回深井藻壽氏のご遺族にお譲りいただいた、藻壽作品のほとんどが、
無銘のままでした。
ひょっとすると上記の師の言葉が頭にあったのかもしれません、
すなわち自分が納得のいかなかった作品には
藻壽さんは銘を入れたくなかったのでは・・
という考えが頭をよぎります。

さて、「深井藻壽」最終回の本日は、
今回の買取りでお譲りいただいた中でも数少ない、
銘が入った作品をいくつかご紹介させていただきます。

 

にこやかな笑みが福々しい、鯛に乗った恵比須様の根付です。
銘は「基寿」です。 

 

———————————— 

 

般若と狐の帯留めです。

こちらも「基寿」銘。
ご遺族のかたによりますと、藻壽さんは故郷の長野に帰られてからは
農民美術(大正から昭和の初期にかけて洋画家として活躍し、
上田市とも関わりの深い山本鼎が、農閑期の仕事として全国の農村へ広めた
木彫りの工芸品)の制作に携わっておられたのだそうです、
上の帯留めもその作品の一つと思われます。

 

下の写真は、ご遺族のお宅に飾られていた藻壽氏の農民美術の作品です、
写真だけ撮らせていただきました。

銘は「基じ」となっています。

 

 

晩年のお話です。
こちらの栗の根付は、もとは無銘だったそうですが、
ご遺族のかたに「銘を入れてほしい」と請われたため、
晩年に「藻寿」の銘を入れたのだそうです。

藻壽氏が若い頃の、例えば前回の記事でご紹介したような銘と比べますと
その差は歴然としており、切なさをおぼえますが、
なにぶん亡くなられたのは87歳のご高齢、
そう考えるとじゅうぶんすごいのかもしれません。

しかし、世が世なら、時代が違えば・・
根付に高い需要があり、藻己のような天才のもとでじっくりと修行に励み、
その後も研鑽し続けることができる環境にもし恵まれていたら・・
藻壽氏によるどれほど素晴らしい根付の作品群が生まれていたかもしれない、と、
ついつい考えてしまいます。

最後になりますが、このたびは藻壽氏のご遺品をお譲り下さり、
また藻壽氏の記事を書くことを快く承諾して下さったご遺族のかたに、
心から御礼を申し上げます。本当にどうもありがとうございました。
このようなつたないブログで大変恐縮ではございますが、
今回の記事をネットに上げることで、
最後の藻一派のうちのお一人と思われる藻壽氏の軌跡を
少しでも記録に残すことができれば・・と願ってやみません。


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